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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)4054号 決定 1958年5月06日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人辻本幸臣、同松井康浩並びに被告人の上告趣意は末尾添附別紙記載のとおりである。

弁護人所論第一点並びに被告人の所論は、原審が病気のため出頭できないとして所定の診断書を添附して公判期日の変更を求めている私選弁護人佐藤菅人の求めに応じないで、第一回公判期日を開き、その当日弁護人を国選して先に提出されている控訴趣意書に基いて弁論させ結審したのは被告人の弁護権を奪ったもので憲法三七条三項に違反するというのである。

しかし、記録によると原審弁護人佐藤菅人は昭和三〇年八月頃から乳糜病のため全身衰弱が甚しいというのに漸く原審の第一回公判期日(同年一一月一八日)の三日前に公判期日の変更申請をしたに止まり(右公判期日の通知は二ケ月余りの余裕を以て右弁護人になされている。)、添附の診断書によればなお二ケ月の安静加療を要するものとされている。控訴審において弁護人は控訴趣意書に基いて弁論をするものであるが、佐藤弁護人の控訴趣意書には量刑不当の主張があるに止まり、事実の点については争がないのである。その控訴趣意書には被告人の名誉職就任についての数種の証明書が添附されているが、それについて事実の取調の請求があったものとは解することができない。これらの被告人の地位については既に一審で弁論の対象とされており、一審で証拠調の請求ができなかったという何らの疎明もないところである。その上被告人は判決言渡期日には出頭しておりながら右の原審第一回公判期日の手続につき何ら異議を述べることもなく、また佐藤弁護人からも書面による異議の申立もされなかったのである。このような事情の下では原審の手続は違法とはいえず違憲の主張はその前提を欠くものである。

所論第二点は、右証明書類について事実の取調の請求があったことを前提としてこれを取り調べなかったことを以て訴訟法違反であると主張する。

しかし、所論の証明書類については控訴趣意書に添附されているだけであって到底事実の取調の請求があったものとは解せられないばかりでなく、裁判所に取調の義務を生ずるために刑訴三九三条、三八二条の二に従って一定の疎明がなければならないのに、何らの疎明もされていないのであるから所論の法令違反は存しない。

所論第三点並びに被告人の所論は、量刑不当の主張に止まる。その他記録を調べても刑訴第四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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